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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)1526号 判決

原告

永吉國昭

右訴訟代理人弁護士

富永俊造

被告

西井運送株式会社

右代表者代表取締役

清水郁子

右訴訟代理人弁護士

秀平吉朗

亀井正貴

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、平成六年八月から毎月末日限り一か月金二五万二五〇二円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告(以下「被告会社」ともいう。)は、貨物自動車運送事業を営むものであり、原告は、被告会社との間で、平成四年八月七日、大型トラック運転手として雇用契約を締結した。

2  被告会社は、原告が被告会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを争っている。

3  原告の賃金は、毎月一五日締めの末日払いであり、その平均賃金は一か月二五万二五〇二円である。

4  よって、原告は、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めると共に、右契約に基づき、平成六年八月以降毎月末日限り一か月二五万二五〇二円の割合による賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。ただし、原告は、平成四年八月七日に被告に長距離輸送の大型トラック運転手として仮採用され、見習研修後の同年一一月一六日、本採用されたものである。その際、被告会社は、原告を「岡山Aコース」(大阪本社を午後七時に出発し、岡山で一泊の後、京都営業所を経由して大阪本社に翌日午後一一時に帰社するという運行コース)の運転手として採用したものである。

2  同2、3は認める。

三  抗弁(解雇)

1  原告は、平成五年一一月一六日付けで、現場荷受作業に従事する現場作業員となったが、平成六年二月ころ、被告会社に対して昇給を申し出てきたので、被告会社は、原告を、平成六年二月一六日、フリードライバー対応の現場作業員とした。フリードライバー対応の制度とは、荷受作業等の現場作業に従事しながら、会社の乗務命令に従い、臨時便や定期便の積み残し品等のトラック輸送を行うものであり、臨時的に荷物を運ぶ必要が生じたときなどに備えて臨機応変に対応し得るために設けられたものである。

2  原告は、次のとおり、五回にわたり被告会社の乗務命令を拒否した。

(一) 被告会社の尾崎敏雄輸送課長(以下「尾崎」という。)は、原告に対し、平成六年三月一八日、神戸丸福水産の荷物の引取り便の運転を命じたが、原告は、「神戸なんか行ったことないし、道も知らへんから行けへん。」と言って右乗務命令を拒否し、尾崎が、「地図を書いて道を教えるから行ってくれ。」と再度命じたにもかかわらず、原告は右乗務命令を拒否した。

(二) 被告会社の吉本武志輸送係長(以下「吉本」という。)は、原告に対し、同月二五日、神戸丸福水産の荷物の引取り便の運転を命じたが、原告はこれを拒否した。

(三) 吉本は、原告に対し、同年四月七日、岡山Bコース(大阪本社を午後七時に出発し、岡山まで往復して翌日午前四時に帰社し、運転手は昼間に睡眠をとるという運行コース)の乗務を命じたが、原告はこれを拒否した。

(四) 吉本は、原告に対し、同年五月一日、岡山Bコースの乗務を命じたが、原告はこれを拒否した。

(五) 吉本は、原告に対し、同月二六日、岡山Bコースの乗務を命じたが、原告はこれを拒否した。

3  被告会社は、原告に対し、同年六月一〇日、原告を名古屋のジャスコ納品センターへの四トントラックの定期便(以下「中部ジャスコ便」という。)の乗務に配属する旨通知したが、原告はこれを拒否し、かつ、将来にわたって輸送業務に従事しない旨を明らかにした。

4  原告は、被告会社において、他の同僚らに対し、「わしはシャブを注射したことがある。」、「わしはヤクザをやっていた。」、「かつて勤めていた会社も、ごねて金をもらってやめた。」などの言動をしたり、先輩、上司に対し、「おい。」、「お前」といった言葉遣いをするなど被告会社内の融和協調を乱し、また、荷物の持込み客に対しても乱暴な口のきき方をし、荷物の扱いも乱暴であった。

5  以上の原告の各行為は、被告会社就業規則二四条四項の「正当な理由なく就業を拒否」した場合に該当する。

6  よって、被告会社は、原告に対し、平成六年六月一〇日、懲戒解雇の意思表示(以下「本件懲戒解雇」ともいう。)をしたが、同年七月六日、右懲戒解雇を撤回して自宅待機を命じた上、同月二五日、改めて本件通常解雇の意思表示(以下「本件通常解雇」ともいう。)をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告が平成五年一一月、現場作業員となったことは認めるが、その余は否認ないし争う。

原告は、平成五年九月三日から同年一一月六日まで腰痛労災で休職していたが、同月七日、職場に復帰して再び岡山Aコースに乗務していたところ、同月二四日、突如として被告会社から岡山Bコースに乗務することを命じられた。しかし、原告は、被告会社に対し、昼は眠れないたちである旨を説明し、以後、物流課に所属して現場作業に従事することとなった。

フリードライバー対応の制度は臨時的・緊急時の補完的な場合に輸送業務に当たるものである。したがって、本来、フリードライバーは右要件を満たさない場合には、輸送業務に従事する必要がない。もとより、原告は、フリードライバー対応になる旨の指示を受けたことはなく、現に、被告会社には物流課所属のフリードライバーは存在しない。

2(一)  同2(一)は否認する。

尾崎は、原告に対し、平成六年三月一八日、神戸丸福水産の引取り便乗務を要請したにすぎない。原告は、その際、これまで右神戸丸福水産に行ったことがないことと、折から現場作業中であったフリードライバーの大脇幹雄(以下「大脇」という。)が右神戸丸福水産を知っていたことから、尾崎に対し、「大脇のほうが早い。」旨進言したところ、同人は、「そうしよう。」とこれに同意した。

被告会社は、現場作業に従事していた原告に対し、平成五年一二月ころ、岡山Aコース及び福岡便の乗務を要請し、原告も、自己の職責を越えて右輸送業務に応じていた。尾崎の神戸丸福水産への引取り便乗務の要請もこれらと同断であり、したがって、原告に対する業務命令は存在せず、仮に、尾崎の右要請を業務命令であるとしても、これは取り消されたというべきである。

(二)  同2(二)ないし(五)はいずれも否認する。

吉本による乗務命令は存在しない。

仮に右各乗務命令が存在したとしても、岡山Bコースの乗務(抗弁2(三)ないし(五))は、現場作業員に対し、その就業時間後の夜間や翌日走行の乗務を命ずるものであり、そのような労働形態は、「自動車運転者の労働時間等の改善基準(労働省昭和四二年二月九日通達)」に違反するから、原告に右乗務命令に服する義務はない。

また、現場作業は身体的疲労を伴うものであり、そのような現場作業を行った後のフリードライバーに対して乗務が命じられた場合、右フリードライバーが乗務命令を拒否することには正当な理由がある。

さらに、原告が右各乗務命令を拒否したとしても、被告会社はその後も原告の現場作業継続を許容したのであるから、右乗務命令は黙示的に取り消されたといえる。

3  同3のうち、被告会社が原告に対し、平成六年六月一〇日、中部ジャスコ便の乗務を命じ、原告がこれを拒否した事実は認め、その余は否認する。

被告会社の右乗務命令は原告を解雇するための口実にすぎないこと、事前協議もなく職種変更を命じたこと、現場作業員が不足していることから、原告は、職種変更の合理的理由がないと判断して右乗務命令を拒否したのであって、右拒否は違法ではない。

4  同4は否認する。

5  同5は争う。

6  同6は認める。

五  再抗弁

1  不当労働行為

(一) 全日本港湾労働組合関西地方阪神支部(以下「本件組合」という。)の西井運送分会(以下「本件分会」という。)は、平成六年六月一三日に結成され、同日、被告に対し、結成通告を行った。

(二) 原告は、本件分会の三役の一人となるなど、本件分会の中心人物として活動していることから、被告会社は、同分会の拡大を抑止するため、原告を見せしめとして不利益に扱っているものである。

2  解雇権濫用

仮に、原告による右乗務命令拒否があったとしても、被告会社は、原告による各乗務命令の拒否に対し、段階を踏んだ制裁をしないで、いきなり本件懲戒解雇に処していること、原告に対し、賞罰規程所定の懲罰委員会による弁明の機会を与えていないこと、平成七年七月六日、ジャスコ便への配置転換拒否を理由とする本件懲戒解雇を撤回して自宅待機命令を出す一方、同月二五日には急遽、尾崎課長及び吉本からの乗務命令拒否を理由として本件通常解雇を行っていること及び他の運転手による乗務拒否及び配転拒否との対比からしても、被告会社の本件通常解雇は、解雇権の濫用に当たる。

六  再抗弁に対する認否

1(一)  再抗弁1(一)は認める。

(二)  同1(二)は争う。

被告会社は、本件懲戒解雇の時点(平成六年六月一〇日)では、本件分会の結成について全く関知しておらず、まして、原告の本件組合への関与の有無については知りようがなかった。

2  再抗弁2は否認ないし争う。

被告会社は、平成六年七月六日、本件懲戒解雇を撤回し、原告のそれまでの就業拒否、行状等に対する懲罰委員会を設置し、同月八日、原告から弁明を聞こうとしたところ、本件組合の者が来て、懲罰委員会自体を否定したので、やむなく、同人ら立ち会いの上で「調査委員会」ということで原告からの聞き取り調査を実施したし、これ以外にも原告に対して乗務命令を行った者に対しても調査を実施したものであるから、手続上の瑕疵は存在しない。

第三証拠

証拠は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載と同一であるから、これを引用する。

理由

第一請求原因について

請求原因事実については、当事者間に争いがない。

第二抗弁について

一  フリードライバー対応の有無について

1  当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)に、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、平成四年一一月に被告会社に本採用された後、被告会社本社の輸送部輸送課に所属して、被告会社の岡山Aコース(なお、岡山Aコースは、本来、京都営業所と岡山の得意先との間を往復する便であって、京都営業所の運転手が乗務するのが筋であるが、原告が大阪本社の配属であるため、原告の場合、大阪本社を午後七時ころに出発し、岡山で一泊の後、京都営業所を経由して大阪本社に翌日午後一一時ころに帰社するという運行コースであった。)に、大型トラック運転手として乗務してきた。しかし、原告は、平成五年九月初め、作業中に腰部捻挫を起こしたため、同年一一月六日までの間、病院に通いながら自宅療養をすることとなり、この間、岡山Aコースには、原告の代りに被告会社の大脇及び久保秀夫従業員(以下「久保」という。)が、それぞれ乗務した。

(二) 原告は、平成五年一一月七日、職場復帰をした。

しかし、前記のとおり、岡山Aコースは、本来、京都営業所を起点とする路線であり、被告会社は、既に、京都営業所で右岡山Aコースに乗務する運転手を雇い入れていたため、被告会社は、右同日ころ、運転手らへの配車業務等を担当していた輸送係長の吉本を通じて、原告に対し、今後は岡山Bコース(大阪本社を午後七時ころに出発し、岡山で荷物を下ろした後、翌日午前五時ころに帰社するという運行コース)に乗務するように申し渡した。

しかし、原告は、被告会社による右路線の変更が唐突になされたこともあり、昼間眠れないたちであることを理由に、右乗務路線の変更に応じず、被告本社でのトラックからの荷物の積み卸しを行う作業(現場作業)につく旨を申し出た。被告会社は、原告に対し、その際、現場作業は給料も安くなる旨を説明したが、原告があくまでも岡山Bコースの乗務を拒否して現場作業につくことを希望したので、同月一六日付けで、輸送業務を解き、原告を本社輸送部物流課に所属の現場作業員とすることとした。もっとも、原告は、同年一二月ころに二回、物流課長の尾崎に依頼されて、福岡や岡山行きのトラックを運転したこともあった。

(三) 原告は、岡山Aコースに乗務していた当時は、毎月二十数万円の手取収入があったが、物流課に所属するようになってからは運転手に支給されていたコース手当及び無事故手当が支給されなくなり、毎月の手取収入が数万円減額することになった。そこで、原告は、平成六年二月ころ、尾崎及び輸送部統括課長の高山を通じて、被告会社に対し、給料を上げてくれるように申し出た。

そこで、被告会社は、原告がもともと運転手であったことから、同月一六日付けで、原告を、臨時的・補完的に運転手が必要となった場合に被告会社の指示命令に従ってトラック運転業務に従事する「フリードライバー対応」の従業員とすることとし、これによって、原告に対し、運転手にしか支給されないコース手当及び無事故手当を支給することとした。尾崎は、そのころ、被告会社作成の原告に関する給与決定書を見て原告がフリードライバーとなったことを認識し、その旨を吉本に伝えたほか、昇給の挨拶に来た原告に対し、今後被告会社が指示をした場合には、その指示に従って適宜運転業務に従事してほしい旨を説明し、原告もこれを承諾した。

なお、原告のように、現場作業員がフリードライバーとしてトラック運転に従事することが予め判明している場合には、被告会社は、右現場作業員の翌日の出勤時間を遅らせるなどの手当をしていた。

そして、被告会社は、原告に対し、同年三月一五日から、コース手当及び無事故手当を再び支給し、原告には、その旨の記載のある給与明細書が交付されるようになった。原告も、同年四月三日には、高山の指示に基づいて、前記岡山Bコースの運行に従事した。

以上の事実が認められる。

2(一)  これに対し、原告は、被告会社からフリードライバー対応となる旨の指示を受けたことはなく、その旨の給与決定書を交付されたこともない旨主張し、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果中にはこれに沿うかの部分がある。

(二)  そこで検討するに、(証拠略)によると、荒木正輸送部長(以下「荒木」という。)は原告に対して給与決定書を直接交付していないことが認められ、かつ、平成六年二月ころ、原告に対して昇給したことを説明したのは尾崎であるとされているところ、同人は、右昇給の前後に給与決定書を被告会社事務所内で見たことがある旨証言するにとどまるばかりでなく、むしろ、荒木が右決定書を交付した旨推測していること、他方、原告の他の上司である吉本及び高山については、両名の証言にもかかわらず、いずれも右昇給の際に右決定書を原告に交付したとは窺われないこと、(証拠・人証略)は、従業員採用の手続との関連で、一般論として給与決定書を交付した旨述べるにとどまること、なるほど、労働契約締結時においては、従業員の主要な関心事である給与内容を告知する機会を与えるのは自然ではあるが、その後、昇給の度毎に右給与決定書の写しを交付する必要性に乏しいことに照らすと、原告に対して給与決定書を交付した旨の(証拠・人証略)はいずれも信用することができず、他に右給与決定書交付を認めるに足りる証拠はないといわなければならない。

(三)  しかしながら、原告は、その本人尋問中において、平成六年二月ころに、昇給を高山及び尾崎に申し出た結果、昇給した旨の説明を高山から受けたことを自認していること、同年三月の給与支払の際には、現に昇給した上、その際併せて交付された給与明細書には、コース手当及び無事故手当の記載があったこと、原告はもともと運転手であって、右各手当が運転手にしか交付されない手当であることを認識していたと推認されること、原告は右昇給後の同年四月三日には、高山から指示を受けて岡山Bコースに乗務しており、これは原告も自認するところであること、フリードライバーはその性質上、必ずしも輸送課員に限られる理由はなく、物流課員であっても特段の支障はなく、勤務時間についても、予め現場作業員が臨時にトラック運転に当たることが判明している場合には、翌日の出勤時間を遅らせる等の手当がなされていたと認められること、他方、(人証略)による原告の昇給には特段の理由がなかった旨の証言は客観的な裏付けを欠き、不自然であることからすると、原告は、平成六年二月、被告会社から、フリードライバー対応となった旨告知され、原告もこれを承諾したものと推認され、これに反する前記各証拠はいずれも信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(四)  よって、原告は、平成六年二月一六日以降、被告会社の指示命令に従って、臨時的・補完的な運行業務に従事するフリードライバー対応の現場作業員となったものと認められる。

二  原告の業務命令拒否の有無について

1  当事者間に争いのない事実に、(証拠・人証略)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 尾崎は、平成六年三月一八日午後二時ころ、他に運転手がいなかったため、現場作業を行っていたフリードライバーの原告に対し、神戸の丸福水産への荷物の引取りのトラックを運転するように命じた。しかし、原告は、神戸には行ったことがなく、地理が分からないから乗務しない旨答えて、これを拒否した。尾崎は、重ねて、地図を書くから右引取り便に乗務するよう命じたが、原告は、地理が分からないと繰り返して、尾崎の右命令に従うことを拒否した。

このため、被告会社は、右丸福水産への引取り便を直ちに運行させることができず、結局、営業担当の藤田係長(以下「藤田」という。)に対し右運行を依頼せざるをえず、そのために、同人が被告会社本社を出発したのは同日の午後五時一〇分になってからであった。

(二) 吉本は、平成六年三月二五日午後二時ころ、現場作業を行っていた原告に対し、前記丸福水産への荷物の引取りのトラックを運転するように命じた。しかし、原告は、またも、道が分からないことを理由に右引取り便への乗務を拒否して現場作業を続けたため、被告会社は、再び、藤田に右引取り便の運行を依頼し、同人は、同日の午後二時三〇分ころ、右丸福水産へと出発した。

(三) 吉本は、平成六年四月七日午後、東京便の荷物が多く、岡山Bコースに乗務していた久保を右東京便に充てるため、同月三日には高山の指示で岡山Bコースを運行していた原告に対し、久保の代りに同コースに乗務するよう命じた。しかし、原告は、かねてより吉本と不仲であったこともあり、同人の命令に従う必要はないと考え、同人の右乗務命令を拒否して、現場作業を続けた。このため、被告会社は、昼間のトラック便の乗務に当たっていた野口武夫従業員に岡山Bコースへの乗務を依頼し、同人が同日夜、右コースの運行に当たった。

(四) 吉本は、平成六年五月一日、東京便の荷物が多く、久保を東京便に乗務させるため、原告に対し、久保の代りに岡山Bコースに乗務するよう命じた。しかし、原告は、吉本の命令に従う必要はないと考えて右乗務命令を拒否し、現場作業を続けたため、被告会社は、昼間のトラック便の乗務に当たっていた森本智雄従業員に同コースへの乗務を依頼し、同人が同日夜、右コースの運行に当たった。

(五) 吉本は、平成六年五月二六日、東京便の運転手が休んだため、久保を右東京便に充て、原告に対し、久保の代りに岡山Bコースに乗務するよう命じた。しかし、原告は、吉本の命令に従う必要はないと考えて右乗務命令を拒否し、現場作業を続けた。このため、被告会社は、昼間のトラック便の乗務に当たっていた山口征之従業員に岡山Bコースへの乗務を依頼し、同人が同日夜、右コースの運行に当たった。

(六) ところで、被告会社には、かねてから従業員側の意向を会社側に伝える従業員の団体として親睦会なる団体があり、右親睦会は、被告会社との間で、適宜、運営協議会なる会合を開催してその要望を伝えるなどしてきた。右親睦会は、被告会社に対し、平成六年五月二九日、運営協議会を開催したい旨申し入れ、被告会社がこれを受け入れたため、翌三〇日午後二時から、運営協議会が開催された。

右運営協議会には、親睦会側からは、有田従業員、川北従業員、冨田従業員、松元従業員のほか、書記として久保が参加し(なお、原告は、参加していなかった。)、被告会社側から参加の荒木及び勝課長に対し、各種の申入れを行ったが、右内容は、いずれも、会社の運営に係わる事項についてのものであった。なお、右親睦会側のメンバーは、原告らと共に、後記のとおり、平成六年六月一三日、本件組合を結成し、被告会社に対し、その旨通告したが、右運営協議会の席上、右メンバーが原告らと共に、右組合結成のための準備に入っている等の事実を明らかにしたとの事実はない。

(七) 被告会社は、平成六年六月初めころから、名古屋のジャスコ納品センターとの間の定期便(午後〇時に被告会社を出発し、同日午後七時に帰社するもの。以下「中部ジャスコ便」という。)を開拓したところ、原告は本来運転手として採用されたものであり、かつ、中部ジャスコ便が主に昼間の勤務であったことから、被告会社は、原告を配置替えの上、同便に乗務させることとした。

そこで、被告会社は、同月一〇日午前一〇時四〇分ころ、原告を輸送部運行課に呼び出し、長野運行次長(以下「長野」という。)及び吉本から、原告に対して右中部ジャスコ便への乗務を命じた。しかし、原告は、自分は現場作業を続ける旨主張して右乗務命令を拒否し、長野及び吉本の説得にも応じようとしなかった。そこで、長野及び吉本は、荒木に原告の対応を報告し、荒木は、緊急幹部会を召集して相談の上、直ちに原告の右乗務命令の拒否やこれまでの多数回にわたる乗務命令の拒否や勤務態度について、被告会社の清水郁子代表取締役、中岸洋介常務取締役及び取締役の西山に報告した。

(八) 右西山らは、原告の右乗務命令の拒否等について急ぎ協議したが、その際、原告が被告会社の職場においてかつて所属していた暴力団の戦闘服(組の代紋を外したもの)を着用して現場作業に当たったり、同僚に対し、自分がかつて暴力団に所属していたこと、覚醒剤を注射したことがある旨話していたことなど、原告の従前からの勤務態度も問題であると考えた。また、被告会社では、これまで従業員に対し、乗務命令拒否を理由に処分を行ったことがなかったため、西山らは、再度、配置換えの上、原告に中部ジャスコ便の乗務を命じ、原告がこれを拒否する場合には、即時、原告を懲戒解雇とする旨決し、荒木を通じて、原告に対して改めて同便への乗務を命じた。

しかし、原告は、あくまで現場作業を続ける旨主張し、運転手としての業務に従事することを拒否したため、荒木は、原告に対し、原告を懲戒解雇する旨の意思表示をし、被告会社は、同日、同年六月分の給与と解雇通知書を交付した。

(九) なお、本件懲戒解雇通知書には、解雇理由として、被告会社賞罰規程一四条一五項(業務上の指揮命令に違反したとき)、一六項(上司の指示等に従わず、改悛の情の見込みがないと認められるとき)違反のため、被告会社就業規則二五条により懲戒解雇とする旨の記載がある。しかし、右賞罰規程一七条上、同規程一四条一五項、一六項所定の各事由は懲戒解雇事由とはされていない。

(一〇) 前記の親睦会側のメンバーは、本件懲戒解雇当時、本件組合の指導のもと被告会社内での分会結成の準備を行っていたため、原告は、本件組合に本件懲戒解雇について相談に行った。そして、本件分会は、被告会社に対し、平成六年六月一三日、組合結成の通告を行ったが、その際、原告は右結成通告書に本件分会の副分会長として記載されていた。

被告会社は、原告に対し、同月一五日、解雇予告手当として四〇万九九二〇円を支払ったが、原告はこれを被告会社に返却した。

原告は、同月二三日、本件懲戒解雇を無効と主張して、地位保全の仮処分を申し立てた(当庁平成六年(ヨ)第一九一〇号事件)ところ、被告会社は、原告に対し、同年七月六日、本件懲戒解雇を撤回し、併せて自宅待機を命じた。

(一一) 被告会社は、平成六年七月八日、前記賞罰規程一六条に基づき、懲罰委員会を開催して原告に弁明の機会を与えようとした。しかし、原告と共に来社した本件組合の執行委員は、懲罰委員会の開催を否認し、会社側懲罰委員の退席を求めたため、被告会社としては、原告から事情を聴取するにとどまった。

(一二) 被告会社は、原告に対し、平成六年七月二五日、就業規則二四条四号(正当な理由なく就業を拒否又は異動を拒んだ場合)違反を理由として、通常解雇する旨の意思表示をした。

以上の事実が認められる。

2(一)  これに対し、原告は、前記1(一)の尾崎の指示は、乗務命令ではなく、単なる乗務要請にすぎず、仮に業務命令であったとしても、原告には、これを拒否する正当な理由があり、また、右命令は、後に黙示的に取り消された、前記一(ママ)(二)ないし(五)の吉本の指示は存在せず、仮に存在したとしても原告には業務命令を拒否する正当な理由があり、また、後に右命令は黙示的に取り消された、前記1(七)の業務命令拒否にも正当な理由がある旨主張し、(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、前記認定のとおり、原告は、フリードライバー対応の現場従業員とされており、原告、尾崎及び吉本はいずれもこのことを認識していたと認められること、原告が平成六年四月三日には高山の指示に基づいて岡山Bコースに乗務していることは原告も自認していること、尾崎及び吉本が、物流課長又は輸送係長として原告に対し業務命令を発することは自然であるのに対し、瀬村らが現場作業の場で右命令が発せられたのを見たことがないといっても、そのことから直ちに原告に対し業務命令が発せられたことがないとは言い難いことに照らすと、前記認定のとおり尾崎及び吉本により、前記各業務命令が発せられたというべきであるから、右認定に反する右各証拠はいずれもにわかに採用し難く、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告は、フリードライバー対応となる以前の平成五年一二月ころに、尾崎の依頼に応じて、自己の職責に属さないにもかかわらず、福岡及び岡山にトラックを運転した経緯があり、このことからみて、平成六年三月一八日の乗務につき、尾崎がことさら命令という形をとらないで、原告に対し、乗務を要請したにすぎないと考えられないでもない。しかし、原告は、右時点では、既に、フリードライバー対応となっていたのであるから、右の経緯から直ちに、尾崎の原告に対する乗務の指示が単なる乗務の要請であるにすぎないということはできない。

(三)  次に、原告の業務命令拒否の正当事由について検討するに、なるほど、(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果によると、被告会社における現場作業が相当な重労働であることは窺い知ることができる。しかしながら、(人証略)の各証言によれば、被告会社としては、フリードライバーの運送業務が必要となった場合には、翌日の業務を軽減するなど同人の業務に相当の注意を払っていることが認められるばかりでなく、むしろ、原告の業務命令拒否は、前記認定のとおり、地理不案内を理由としたり、あるいは、原告の個人的な感情等を理由になされており、しかも、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によると、原告には自らが上司と認めない者の言うことは聞こうとしない点があると認められることに照らすと、原告において、右各業務命令を受けた際に右各命令拒否の正当理由があったとは到底認め難く、ましてこれを尾崎や吉本に対して説明したとの事実は認められない。

なお、原告は、前記平成六年三月一八日の業務命令の際には、他にフリードライバーの大脇がいたので、原告が右乗務をすべき必要性はなかった旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中には、これに沿う部分がある。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる(証拠略)によると、大脇は、同月一七日から東京便に乗務し、同月一八日には、沼津からの便に乗務していたものと認められるので、原告の右主張はその前提を欠き理由がない。

したがって、原告の右主張は、いずれも採用できない。

(四)  さらに、原告に対する尾崎及び吉本の各業務命令は黙示的に取り消された旨の主張について検討するに、尾崎は前記業務命令を発するに際して、神戸の地図を書くから乗務するよう重ねて指示をしていると認められること、吉本は四回にわたり原告に業務命令を行っていることに照らすと、右両名の各業務命令後に原告が現場作業を継続したからといって、それが右両名が積極的に許容したためであるとは到底認め難い。

したがって、原告の右業務命令取消の主張は採用できない。

(五)  原告は、被告会社の原告に対する中部ジャスコ便の乗務命令は、原告に対する配置転換の趣旨を含むものであるところ、被告会社は、右配置転換を命ずるに当たって、事前に原告の意見を聴取していないので、右配置転換命令は違法であるので、原告は、右違法な配置転換を前提とする右乗務命令に応ずるべき理由はないと主張するが、たしかにに、中部ジャスコ便の乗務は、その前提として現場作業員から大型ドライバーへの復帰を前提とするものであるから、配置転換の趣旨を含むというべきところ、成立に争いのない(証拠略)(就業規則)によれば、三三条二項は、職種等の変更に当たっては、会社は、事前に従業員の意見を聞くものとするとされていることが認められるが、前記認定のとおり、原告は、大型ドライバーとして採用されたものであること、前記認定のとおり、中部ジャスコ便は、被告会社において、新たに開拓した路線であることから、新たに人員の配置を要したこと、前記認定のとおり、中部ジャスコ便は、昼間の乗務であって、これは、かねてよりの原告の希望に沿うものであること、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、右乗務は、給与条件も現場作業員に比し良いことが認められることにかんがみるとき、被告会社が原告に対し、配置転換を命じたのには合理的理由があり、原告において、これを拒否すべき余地はないので、この点、右配置転換に当たり、被告会社が事前に原告の意見を聴取しなかったとしても、このことから、右配置転換が直ちに違法無効なものとなるというものではないというべきである。したがって、原告には、右乗務命令を拒否しうる正当な理由はない。

また、原告は、中部ジャスコ便の乗務命令の拒否には、被告会社にあっては現場作業員の不足という事情もあるので、右乗務命令の拒否には、正当理由がある旨主張し、たしかに、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果によれば、被告会社の現場作業員が不足気味であったとの事実を窺うことができる。

しかしながら、仮にそうだとしても、これをもって原告個人に対して発せられた業務命令を拒否する正当理由となるものではない。

したがって、結局、原告の右主張は失当である。

三  以上によれば、原告には被告主張の業務命令拒否等の事由が存在したものと認めることができ、被告会社の、原告の右行為が就業規則二四条四号に該当するとの判断は相当であるといえる。

第三再抗弁について

一  再抗弁1(不当労働行為)について

1  原告は、被告会社は本件組合の拡大を阻止するために原告を不利益に扱っている旨主張するが、先に認定したとおり、本件分会の結成通告がなされたのは平成六年六月一三日であるところ、原告に対する本件懲戒解雇はこれに先立つ同月一〇日になされているのであって、しかも、右結成通告以前に行われた親睦会と被告会社の運営協議会にも原告は出席しておらず、その際、右メンバーが原告らと共に組合結成の準備をしていることを告知するなどしていないことから、被告会社において、原告が本件組合結成に向けて積極的に活動しているとの事実を認識していたと認めることはできず、他に被告会社が本件組合及び本件分会を不利益に扱った事実を認めるに足りる証拠はない。

2  したがって、本件懲戒解雇及びこれを撤回の上、引き続きなされた本件通常解雇をもって、不当労働行為とは認め難く、原告の再抗弁1は採用できない。

二  再抗弁2(解雇権濫用)について

1  被告会社は、原告の前記業務命令違反等により、平成六年六月一〇日、原告を本件懲戒解雇としたが、同年七月六日、右懲戒解雇を撤回し、正式に懲罰委員会を開催せずに、同月二五日、改めて原告を本件通常解雇に処したこと、本件懲戒解雇が、被告会社賞罰規程上も、根拠が充分であるとは言い難いことは前記認定のとおりである。

2  しかしながら、前記認定のとおり、原告は、岡山Bコースへの路線変更を指示されて以来、被告会社の業務命令を、多数回にわたって、専ら自分個人の都合等を理由に繰り返し拒否したこと、懲罰委員会の開催を否認したのはむしろ本件組合執行委員であること、使用者が懲戒解雇の意思表示を撤回の上、同一事由により労働者を通常解雇とすることに法律上妨げはないことに照らすと、被告会社が原告を本件懲戒解雇を撤回の上、原告を被告会社就業規則二四条四項に基づき通常解雇としたことは相当であって、右解雇をもって、解雇権濫用に当たるとはいえない。

第四結論

以上によれば、本件通常解雇により、原告は、被告会社の従業員としての地位を喪失し、その労働契約上の権利を失ったということができる。

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 末吉幹和 裁判官 井上泰人)

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